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名古屋高等裁判所 昭和44年(ネ)246号 判決

主文

本件控訴を棄却する。

原判決添付目録五行目に「二階四七・六〇平方米(一五坪四合)」とあるを「二階五〇・九〇平方米(一五坪四合)」と更正する。

控訴費用は控訴人らの負担とする。

事実

控訴代理人は「原判決中控訴人らの敗訴の部分を取消す。被控訴人の請求を棄却する。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴代理人は主文第一、第三項と同旨の判決を求めた。

当事者双方の事実上の主張および証拠関係は、控訴代理人において乙第六号証を提出し、当審における控訴人堀田登一および被控訴人各本人尋問の結果を援用し、被控訴代理人において乙第六号証の成立を認めたほかは、原判決事実摘示のとおりであるからこれを引用する。

理由

一、賃料増額請求について

当裁判所も、被控訴人の控訴人堀田登一に対する原判決添付目録(一)記載の建物(以下本件(一)の建物という)に関する賃料増額請求は、原審認容の限度において正当として認容し、その余は失当として排斥すべきものと判断する。その理由は、原判決理由冒頭説示のとおりであるから、これを引用する。

二、建物収去土地明渡および建物退去土地明渡の請求について

次に、被控訴人の控訴人堀田登一に対する建物収去土地明渡の請求および同堀田三二に対する建物退去土地明渡の請求について判断する。

被控訴人所有の原判決添付目録(三)記載の土地(以下本件土地という)の上に控訴人登一が原判決添付目録(二)記載の建物(以下本件(二)の建物という)を所有して本件土地を占有していること、および控訴人三二が本件(二)の建物に居住していることは当事者間に争いがない。

控訴人らは、控訴人登一は本件土地につき本件(二)の建物の所有を目的とする賃借権を有し、賃借権に基づき本件土地を占有しているのであり、控訴人三二は控訴人登一の同居の家族として本件(二)の建物に居住しているのに過ぎないのである旨主張するのに対し、被控訴人は、右主張を争い、控訴人登一に本件土地を占有する権限があつたとしても、同控訴人は被控訴人に対し本件(二)の建物を収去して本件土地を明渡すとの約束をなした旨主張するので以下これらの点について検討する。

いずれも成立に争いのない甲第二号証、乙第一ないし第五号証、原審および当審における被控訴人本人尋問の結果により真正に成立したと認められる甲第一号証、原審証人竹島すうおよび同内藤菊重の各証言、原審および当審における被控訴人および控訴人登一各本人尋問の結果ならびに弁論の全趣旨を総合すれば、次の(一)ないし(五)の事実を認めることができる。

(一)  控訴人らの亡父堀田浪造は、明治四四年頃本件(一)の建物(母屋)を当時の所有者高木満吉から賃借したものであるところ、右浪造は葬儀屋を営んでいたので、右賃借建物の敷地の一部でその裏手にあたる本件土地を材料置場等として使用していたが、間もなく右高木の承諾を得て本件土地上に木造亜鉛葺平家建二八・三二平方米(八・六坪)および木造瓦葺平家建一九・八三平方米(六坪)の建物を建築し、右建物を材料置場や仕事場等として使用して来たものであるが、大正四年頃これに増改築を加えるなどしてこれを現在の本件(二)の建物としたものである。

(二)  被控訴人の亡父竹島史郎は昭和五年本件(一)の建物および本件土地を含む愛知県西春日井郡新川町大字土器野新田字南中野三六九番宅地四〇九・九一平方米(一二四坪)を前記高木より買受け、被控訴人は昭和一六年八月右竹島史郎の死亡により右物件を家督相続によつて取得して建物賃借人たる地位を承継したものであり、他方、控訴人登一は昭和二〇年八月前記浪造の死亡により家督相続によつて本件(一)の建物の賃借権および本件(二)の建物の所有権を承継取得したものである。

(三)  ところで、控訴人らの亡父浪造と前記高木との間に締結された本件(一)の建物の賃貸借契約は六〇年以上も前のことで契約書も作成されていなかつたため、本件(一)の建物の敷地の範囲がその裏手にある本件土地にまで及んでいたか否かの点、本件(二)の建物の建築に際し右浪造が当時の所有者高木の承諾を受けたか否かの点、および浪造が右高木の承諾を受けたとしても、右承諾が本件(一)の建物の賃貸借と別個に本件土地上に本件(二)の建物の所有を目的とする独立の土地賃貸借契約ないしは使用貸借契約を締結する趣旨であるのか、あるいは単に本件(一)の建物の敷地の一部に右建物の効用を増加させるべく敷地利用の一方法として本件(二)の建物の建築を承認した趣旨に過ぎないものであるのかなどの点が必ずしも明確でなく右の点につき、被控訴人は、亡父史郎から本件土地は本件(一)の建物の敷地に含まれているものではなく、本件(二)の建物は被控訴人側において本件土地を必要とする場合には控訴人側において何時でも取毀して右土地を明渡す約束になつている旨聞かされていたものである。

(四)  そして、昭和二六年七月頃控訴人登一が本件(二)の建物を被控訴人に無断で改造しようとしたことから、右改造が実施されると本件土地を必要とすることが生じた場合にその明渡を受けることが困難となることをおもんばかる被控訴人との間に紛争が生じ、その解決方法として、被控訴人は控訴人登一の改造を承諾し、その代償として同控訴人は被控訴人において本件土地を必要とするときには被控訴人の申出により木件(二)の建物を収去して本件土地を明渡す旨の合意が双方の自由な意思に基づき成立したものである。

(五)  控訴人登一は本件(二)の建物の一部を物置等として自ら使用し、控訴人三二は実兄である控訴人登一の承諾を得て右建物の一部に妻子と共に居住し、控訴人三二も控訴人登一と別個に本件土地に対し独立の占有を有しているものであり、被控訴人は勤務先の会社の定年退職を前にし、本件土地上に借家を建築して退職後の収入の道を開くべく控訴人らに対し本件土地の明渡を求めているものである。

前掲原審証人竹島すうの証言ならびに原審および当審における被控訴人および控訴人登一各本人尋問の結果中、右認定に反する部分はたやすく措信し難く、他に右認定を左右する証拠はない。

右認定の(一)の事実によれば、本件土地は控訴人登一の先代浪造の賃借した本件(一)の建物の敷地の一部に含まれており、右浪造は、本来本件土地を本件(一)の建物の敷地の一部として利用する権限を有していたものであり、右賃借建物の効用を増加させるべく敷地利用の一方法として当時の所有者高木の承諾を得て本件土地上に本件(二)の建物を建築したものであることが明らかであるから、控訴人登一の本件土地に対する占有は、本件(一)の建物の賃貸借契約と別個独立に本件(二)の建物の所有を目的として締結された土地の賃貸借契約ないしは使用貸借契約に基づくものということはできないが、本件(一)の建物の賃貸借契約に附随してなされた特約に基づく正当なものというべきであつて、前認定の被控訴人と控訴人登一との間になされた被控訴人において本件土地を必要とする場合には同控訴人において被控訴人に対し本件(二)の建物を収去して本件土地を明渡す旨の合意(以下本件合意という)は、建物の賃借人がその賃貸人に対し建物の敷地として利用していた空地の一部を返還する旨の合意と同一の性質を有するものと解すべきである。そして、本件合意は建物の賃貸借に関するものであるから、これをもつて借地法一一条にいう借地人に不利な特約に当るものということのできないことはいうまでもないし、また、本来建物の賃借人はその敷地の一部に空地部分があつても空地に自己の建物を建築したり一たん建築した建物を改造したりなどするについては、特段の事情のない限り建物賃貸人の承諾を要するものと解すべきところ、本件合意は前認定の経緯で控訴人登一において改造の承諾という代償を得てなされたものであるから、これをもつて借家法六条にいう借家人に不利な特約に当るものということもできない。したがつて、本件合意に基づき控訴人登一は被控訴人に対し本件(二)の建物を収去して本件土地を明渡すべき義務を負うものというべきであり、控訴人三二は被控訴人に対し本件(二)の建物から退去して本件土地を明渡すべき義務を負うものというべきである。

なお、控訴人らは、被控訴人の控訴人らに対する本件土地の明渡請求は権利の濫用として許されない旨主張するが、本件合意は前認定の経緯から控訴人登一において本件(二)の建物の改造という代償を得て任意になしたものであり、しかも既に右合意の時より一八年余の歳月が経過し、被控訴人に本件土地を必要とする事情が生じているのであるから、被控訴人の土地明渡の請求が権利の濫用となるいわれはない。

してみれば、本件合意に基づき被控訴人において控訴人登一に対し本件(二)の建物を収去して本件土地を明渡すべきことを求める請求および控訴人三二に対し本件(二)の建物から退去して本件土地を明渡すべきことを求める請求は正当として認容すべきであり、右と結論を同じくする原判決は相当である。

三、よつて、本件控訴は理由がないからこれを棄却すべく、民事訴訟法三八四条、九五条、八九条、九三条に従い、なお原判決添付目録五行目に「二階四七・六〇平方米(一五坪四合)」とあるは「二階五〇・九〇平方米(一五坪四合)」の誤りであることが明白であるから主文第二項の如く更正することとし、主文のとおり判決する。

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